青山学院大学で「4年間ジオな学生を育ててみてわかったこと」とは? 4月に開催されたイベント「ジオ展2019」において、同大学地球社会共生学部の古橋大地教授が講演し、ジオ関連企業に役立つグローバルな人材を輩出するための多様な取り組みについて紹介した。
青山学院大学地球社会共生学部の古橋大地教授
OSMのマッピングはもとより、野営・火起こし、ドローン操縦も指導
 地球社会共生学部は2015年4月に新設された学部で、今年3月に一期生が卒業し、4月に5期生が新たに入学した。同学部は、従来のような地理学的・工学的なアプローチではなく、海外で役に立つ人材を輩出するグローバル人材育成をモットーにしており、タイやマレーシアに半年間、留学させるなど、途上国・新興国での留学経験を生かした教育を行っている。地理やリモートセンシングを専門とした学部ではないが、古橋氏はグローバル教育の中において地理空間情報を活用した取り組みを続けてきており、今回はその中で得られた知見について語った。
 古橋氏は同学部を立ち上げるときに、「地図を作れる」「コミュニティにコミットできる」「日本だけでなく海外のコミュニティにも関わる」「フィールドワークに強い」といった要素を兼ね備える人材の育成を意識したという。そのために取り組んだこととして、グラフィックレコーディングによる情報の整理や分析、ウェブ地図サービスの訓練、日常的なOpenStreetMap(OSM)のマッピング、複数のオンラインコミュニケーションツールの訓練、定期的に行われるフィールドワークなどを挙げた。
 特にOSMのマッピングについては日常的に取り組むように指導したため、今では同大学の相模原キャンパス周辺はOSMの地図データがかなり充実している。また、フィールドワークでは学生にテントを持参させて、野営や火起こし、ツリーハウス作りや、空撮映像の制作や空撮写真を元にした地図作りなど、さまざまな体験をさせた。
グラフィックレコーディングの成果(画像提供:古橋大地氏)
描き終わった成果を見せ合う(画像提供:古橋大地氏)
相模原キャンパス周辺のOSMデータ(画像提供:古橋大地氏)
研究室内ではWord使用禁止、レポート・卒論はGitHubで共有し、外部からもレビュー
 さらに、海外のジオコミュニティとも積極的に交流させた。例えば2017年にはネパールで開催されたOSMのアジアカンファレンス「State of the Map Asia 2017」にて学生がラーメン店マップの成果などを発表した。さらに、Googleのインドオフィスや「国境なき医師団」など、さまざまな企業やNGO/NPOに訪問してスタッフと交流した。
「State of the Map Asia 2017」にて成果を発表(画像提供:古橋大地氏)
ラーメン二郎風デザインマップ(画像提供:大槻純萌氏・古橋大地氏、Mapbox Studioを使用)
 このようにして出会った海外の仲間との情報共有には、GitHubを使用している。研究室内でも今ではWordの使用を禁止し、レポートの提出先もMarkdown形式でIssueに投稿することにした。また、卒論ではGitHubレポジトリを提出させている。これらの文書は基本的に外にも公開し、外部からのレビューにより学生に刺激を与えている。今では学部1年生からGitHub上での活動履歴を作っており、GitHubのユーザープロフィールが就職活動をする上で履歴書代わりにも使える。
 古橋氏はこれら一連の取り組みにおける反省点として、「フィールドワークなどで自由時間を与えるとかえって動けなくなってしまったので、適切なゴール設定する必要があると感じました。例えば位置情報ゲームを単に『やってみよう』と言うだけでなく、『この期間にこのレベルまで行きなさい』と達成目標を与える必要があります。また、卒論への時間配分が十分でなかったこと、もともと地理学的な学部ではないので、この分野の素養の強化なども必要だと思いました」と語った。
 さらに今後のチャレンジとしては、今年度からは3年生にもゼミ論の提出を義務付けて卒論の練習をさせる、グラレコやドローンなど興味のある分野を明確化するために研究室内サークル活動を実施する、学外の拠点拡充などを挙げた。
 「まだまだやらないといけないことはたくさんありますが、GitHubのアカウントを見ていただくと、すでにたくさんの成果が上がっていますので、興味があればぜひ閲覧していただければと思います。このような取り組みの中で、ジオ関連の企業のお役に立てる人材を輩出できればと思っています。」(古橋氏) “地図好き”なら読んでおきたい、片岡義明氏の地図・位置情報界隈オススメ記事住所の“表記ゆれ”を正規化する自動変換サービス「クイック住所変換」提供開始~Geolonia地籍調査・14条地図作成システム「Mercury-LAVIS」がアップデート~福井コンピュータ「登記所備付地図」の電子データを法務省が無償公開→有志による「変換ツール」や「地番を調べられる地図サイト」など続々登場マップル、全国の「登記所備付地図データ」を可視化するビューア公開。法務省のデータを使いやすく好みのローカル鉄道地図などA3用紙にプリントアウトできるサービス、コンビニのマルチコピー機で提供都内の鉄道の“動き”を3D地図上にリアルタイムに再現、「Mini Tokyo 3D」開発者が語る昭文社、昭和~平成の都市地図シリーズを復刻した「MAPPLEアーカイブズ」発売“よく見ると地図柄”なデザインの文具、ゼンリンが新発売スマホ位置情報の精度が向上、“高さ”特定可能に。日本で10月より「垂直測位サービス」電波強度がGPSの10万倍、GNSSの弱点を補う「MBS」とは?スマホの「北」は「真北」「磁北」どっち? 8月11日「山の日」を前に考えてみよう海岸線3万2000kmを測量、日本の“浅海域”を航空レーザー測深で詳細な地形図にGoogleマップも未踏の領域!? 海の地図アプリ「ニューペックスマート」が本気すぎる高校の「地理総合」必修化で、地理教員の有志らがGoogleスライドで教材を共有Amazon、Meta、Microsoft、TomTomらが保有するデータを統合して地図データを整備――「Overture Maps」とは何か?ヤフーも採用した地図サービス「mapbox」とは何か?国土地理院の「地理院地図Vector」で自分の地図をデザインしてみよう!低コストで自由度の高い地図サービス「Geolonia Maps」正式提供開始元Appleのカートグラファー・森亮氏が語る「MapTiler.JP」地図のこだわりとは?地図エンジニア達のWork From Hokkaido#series-contents .current-page { font-weight: bold; }
INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。
片岡 義明
フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」、「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。

平成最後の1年間を、地図・位置情報の10大ニュースで振り返る

そこはGoogleマップ未踏の領域!? 海の地図アプリ「ニューペックスマート」が本気すぎて法定備品に認可
▲[趣味のインターネット地図ウォッチ]の他の記事を見る

関連リンク 古橋研究室 公式ブログ Furuhashi Labs(GitHub) 4年間ジオな学生を育ててみてわかったこと(プレゼンテーション資料) 「ジオ展」公式サイト

関連記事

国内10カ所に「ドローンバード基地」を――災害発生時に飛び立って空撮、最新地図作成に役立てる市民プロジェクト
2015年11月24日

連載
地図ウォッチ
増え続けているマッパーとOpenStreetMapデータ
2017年8月31日

連載
趣味のインターネット地図ウォッチ
手書きでマッピングできる! OSMの現地調査用地図印刷ツール「Field Papers」がリニューアル
2015年6月4日

連載
地図ウォッチ
平成最後の1年間を、地図・位置情報の10大ニュースで振り返る
2019年4月25日

投稿者 Akibano

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です