安藤昇氏(青山学院中等部講師)
第8回は、2019年に政府が打ち出したGIGAスクール構想の何年も前から学校教育のICT化に取り組んできた、教育業界の異色の存在である青山学院中等部講師の安藤昇氏が登場する。
「テクノロジーで教育を楽しくする!」をテーマに発信するYouTubeチャンネル「GIGA ch.」の登録者数は約1万2000人以上に上り、自宅の動画配信・編集スタジオにはプロ顔負けの配信機材も揃える。
現在、「教育DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉が盛んに使われているが、安藤氏から見ると「古い」と感じるのだそう。その安藤氏が教育DXの先に見据えるのは、AIを活用した教育改革だ。氏にとってAIは人間よりも人間らしく正しい判断ができるということで、学校の授業では積極的にAIに関するプログラムを取り入れている。
そんな安藤氏が教育現場でどのように取り組んできたのか、また、夢中になっているというAIの話についてうかがった。
「IT・セキュリティ業界にいる、尖った人たちを紹介したい!」――
武田一城氏。独立系SIerや大手メーカー系SIerを経て、2022年には株式会社ラックから株式会社ベリサーブに移籍。NPO法人日本PostggreSQLユーザ会理事でもある。マーケティング戦略の専門家として書籍や複数のIT系メディアでの執筆活動やシンポジウム等での講演活動も行っている
……そう語るのは、ソフトウェア検証業界のパイオニアとしてIT品質向上技術に定評がある株式会社ベリサーブの武田一城氏。
氏によると、“けものみち”を歩み続けてきたような(?)尖った人たちが業界には沢山いるという。
本連載は、
「いろいろあって今はこの業界にいる」
「業界でこんな課題・問題があったけど○○で解決した」
「こんなXXXXは○○○だ!」――
など、それぞれが向き合っている課題や裏話、夢中になっていることについて語り尽くしてもらう企画になる。果たしてどんな話が飛び出してくるのか……? 【この記事の目次】
▼YouTuberとして活躍、動画の収益は生徒のPC購入に
▼学校のICT化、始めたのは教員環境から
▼400本以上の動画を配信、効率化を追求したプロ並みの環境
▼親が与えてくれたPCが今の活動の原点
▼「教育DXは古いです」、正しい判断をするAIが起こす教育改革
▼人手不足を補うAIを活用する人材を育成したい
YouTuberとして活躍、動画の収益は生徒のPC購入に
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GIGAスクール構想やプログラミング教育の分野で知名度の高い安藤先生ですが、YouTuberとしても活躍しています。まずは動画について、どのように作成しているのか教えていただけないでしょうか。
[安藤氏]
これまでの自分の経験を元にしたものや、先生方から寄せられる悩みや質問については、全て動画にしています。オンライン授業をどのように行えばいいのか、といった動画も公開していますが、さまざまな市町村で公式動画として利用してもらっています。例えば、Googleフォームで漢字テストを作る解説動画が最近では人気でした。
このほか、体育の授業革命が起きるのではないか!?と思う無料アプリ「Plask」についてもYouTubeで解説しています。このアプリは動画に映る人の動きをトラッキングして、CGのアニメーションが作れるのが特徴です。
通常、体育の授業は運動をするのがメインですよね。先生がお手本を見せることはあっても、体がどう動いているか仕組みを教えてくれることは稀です。でも、自分の動きを動画で撮影して、このアプリを使うとAIでアニメーション化でき、ありとあらゆる角度から動きを解析できます。これまで感覚でやっていたことが映像として確認でき、科学的に解析ができるのです。
また、コロナ禍ということで、食べ物や飲み物を口にするときに、AIがこれらを感知して自動で開閉するマウスシールドの作り方の解説も授業でやっています。材料は全て100円ショップで揃えられます。
ちなみに「GIGA ch.」のチャンネル登録者数は、1万2000人以上で、広告収入はひと月あたり約10万円です。この収益は、生徒用のPCを購入するなど、教育のために使っているので、生徒もすごく喜んでいます。環境を整えることで、グッと伸びる子どもたちがいるんですよね。
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動画もツッコミどころがあったりで面白いのですが、YouTubeで得た収益をそのまま学校の環境整備のために使うとは……素晴らしい取り組みですね。
学校のICT化、始めたのは教員環境から
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私と安藤さんとの出会いは、第2次安倍内閣が教育ICTを国家戦略の柱の1つとして、教育ICTブームが起きていた2014年ごろです。とある勉強会で「ICTの導入で成績が上がるのは、だいぶ先」と私が講演していたところ、安藤さんは「動画の活用で成績が上がりました!」と話されて、度肝を抜かれました(笑)。
[安藤氏]
前任校で教鞭をとっていたころですね。ちょうど8年前の2014年に、効率よく質の高い授業を受けられれば、成績は簡単に上がるのでは?と考え、生徒用のタブレットを導入しました。
予備校と提携をして、有名講師の授業動画を全てアーカイブ化。生徒がどの先生の講義でも好きなときに受けられる環境を作りました。子どもたちは、その質の高い動画を倍速で観て、効率よく学習することで成績が上がりました。某付属高校内で中間ぐらいの成績でしたが、一気に上位になり、ちょっとした話題になりました。
当然、授業が得意な先生もいればそうでない先生もいるわけで、得意な先生が教えて、それを生徒が選択できればいいなと考えています。生徒が選べるのは学校だけで、先生は選べないわけですから。先生が嫌いだという理由で、学びの機会を失うのは非常にもったいないと思っています。
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学校現場にICTを導入するのは、けっこう大変だと思うのですが、うまくいった秘訣は何でしょうか。
[安藤氏]
私が元々ICTを利用したのは、公務でした。つまり、生徒からではなく教員環境からなんです。
学校で必ず必要な入試処理や時間割処理とか、座席管理など、それがないと学校が成り立たないものを、得意なプログラミングを生かして改善していったので、強制的にやらざるを得ない感じですよね。だからうまくいったんだと思います。
入試処理は、マークシートリーダーの機械を買ってもらって、自前でそのプログラムを構築しました。当時それを動かすためのAPIがなく、手探り状態でコマンドを打ち込んで、どうやったらどう反応するとかいうのを全部やっていたら、だいたい解析できて完成しました。
生徒向けに、自分が最初にやったのは、予備校の優秀な先生の動画をひたすら見せたことです。今の「スタディサプリ」のようなシステムを自前で作っただけなんです。非常にシンプルなので、分かりやすく、受け入れられやすかったのでしょう。
あとは管理職がすごく応援してくれて、予算も出してくれたので、ここが他の学校と根本的に違うところなのかなという気がします。
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なるほど! 先生を最初に巻き込んだからなのですね。安藤さんの場合は、元々ICTが得意で、世の中の動きとは関係なく、自分でできることをやられていたこともでかいです。
[安藤氏]
私の場合は「なんとか楽したい」「みんなにも楽してもらいたい」という気持ちが非常に強いのです。同じ授業を何回も繰り返さなくても動画でいいのでは?とか、入試の採点をするにしても三日三晩かけて先生が手で丸つけしなくてもいいのでは……など、そういったことを感じていました。
400本以上の動画をYouTubeで配信、効率化を追求したプロ並みの配信環境
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今、安藤さんのYouTubeチャンネルには動画が400本ぐらいありますよね。相当な数になりますが、それだけの動画編集ができるモチベーションって何でしょう?
[安藤氏]
多分、編集が速いというのがあると思います。話の間やケバ取り(※不要箇所の削除)は、全てプログラムを組んでやっていますし、特殊効果も全部リアルタイムで入れているので、あまり編集の手間が掛からないのです。
一番時間を掛けているのはサムネイルです! YouTubeは見た目が大事なので、デザインも自分で工夫してやっています。
また、自宅にもスタジオがあり、24時間電源を入れっぱなしで、座ると撮影ができます。だから気が向いたときに「はい、こんにちは。今日は……」と話して、YouTubeに動画を上げられます。なので、皆さんが想像してるような大変な作業は全くしていません。
ちなみに配信に使っている機材は、こちらの動画で紹介しています。